IDH変異グリオーマが好発する脳部位とその部位における脳の代謝の特徴:NYUランゴン・メディカルセンターの204例

公開日:

2026年5月6日  

最終更新日:

2026年5月5日

Anatomic Predilection of Isocitrate Dehydrogenase-Mutant Gliomas: A Multi-Institutional Spatial Analysis

Author:

Park M  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, New York University Langone Medical Center, New York, New York, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41930943]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Apr
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

グリオーマの発生および成長は,腫瘍細胞の遺伝子変異のみならず,腫瘍細胞とその周囲微小環境との複雑な相互作用によって規定されることが推測されている(文献1-4).NYUランゴン・メディカルセンターは,IDH変異型グリオーマ204例およびIDH野生型グリオーマ200例の脳内局在を標準脳(MNI 152)を用いてセグメンテーションし,その好発領域を明らかにした.また,Allen Human Brain Atlas(包括的遺伝子発現脳マップ)(文献5)に収録された正常成人脳6例のマイクロアレイ発現データを用いて,IDH変異腫瘍の好発領域におけるトランスクリプトーム・プロファイルを明らかにした.

【結論】

IDH変異型グリオーマの50.5%は上前頭回および中前頭回に発生し,これらの脳回の体積に対して3.1倍の局在的集積を示した(p <.001).IDH野生型グリオーマは前頭葉には少なく,好発部位としては,島皮質,海馬,視床,上側頭回が挙げられた.
また,島皮質ではIDH変異型および野生型とも,それぞれ4倍および4.5倍の高集積を示した(いずれもp <.001).星細胞腫は乏突起膠腫に比して島皮質に発生する傾向が強かった(23.3 vs 3.0%,p <.001).
トランスクリプトーム解析では,IDH変異グリオーマの好発部位の前頭葉で,コレステロール代謝および脂肪酸代謝経路の発現が相対的に亢進していた(NES =1.94と1.78).

【評価】

NYUランゴン・メディカルセンターで2015年から2025年の間にWHOグレード2-4と確認されたグリオーマ症例404例を対象とした本研究によれば,IDH変異型グリオーマの約50%は上前頭回および中前頭回に発生し,脳回の体積と比較した集積性は約3倍であった.IDH変異型グリオーマは前頭葉の中でも特に正中寄りに好発しており,35.6%が上前頭回に発生し(observed-to-expected,O:E =3.5),中前頭回(O:E =2.2),下前頭回(O:E =1)と外側に向かって段階的に低下した.これらの傾向は,外部検証コホート(ミシガン大学の症例など総計417例)でも確認され,上前頭回はO:E =2.7の集積を示した.一方,IDH野生型グリオーマは,前頭葉には少なく(O:E =0.58),海馬や側頭皮質を含む辺縁系に好発した.
これまでの研究でも前頭葉にIDH変異グリオーマが好発しやすいことが報告されているが(文献6-8),その多くは前頭葉を単一構造として扱っており,本研究のような脳回レベルでの解析は不十分であった.
本研究ではさらに,包括的遺伝子発現脳マップ(Allen Human Brain Atlas)を用いてトランスクリプトーム解析を行い,IDH変異グリオーマが好発する前頭葉において,コレステロール代謝および脂肪酸代謝経路の発現が相対的に亢進していることを指摘している.著者らは,前頭葉におけるこのコレステロール代謝および脂肪酸代謝の亢進が,IDH変異グリオーマ発生の基盤となっている可能性を示唆している.今後,この仮説を証明するための基礎研究が必要であろう.また,IDH野生型グリオーマの方の好発部位におけるトランスクリプトーム・プロファイルの特徴も興味あるところである.

執筆者: 

有田和徳