公開日:
2025年8月23日Clinical features of Rathke's cleft cyst with secondary hypophysitis and outcomes of endoscopic transnasal surgery versus features of common Rathke's cleft cysts: a single-center retrospective cohort study
Author:
Ehara T et al.Affiliation:
Departments of Hypothalamic and Pituitary Surgery and Pathology, Toranomon Hospital, Minato City, Tokyoジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2025 Apr |
巻数: | 143(2) |
開始ページ: | 423 |
【背景】
ラトケのう胞(RCC)の3割以上に下垂体炎が引き起こされることが知られているが(文献1),その報告は意外に少なく,2008年のレビューでは14例に留まっており(文献2),RCCに伴う下垂体炎の頻度,発症機序,臨床像は明らかではない.虎の門病院間脳下垂体外科は,2011年から2023年までに経鼻内視鏡手術が施行された自験のRCC106例のうち,病理学的に下垂体前葉への顕著なリンパ球浸潤を示し,かつMRIでのう胞壁の著明な肥厚と下垂体茎径の腫大(>3.5 mm)を呈したことによって下垂体炎合併型RCCと診断された症例11例(中央値36歳)を抽出し,下垂体炎を伴わない通常型RCC95例(中央値51歳)と比較した.
【結論】
通常型と比較して下垂体炎合併型では,頭痛(90.9% vs 48.4%,p =.009),発熱(63.6% vs 1.1%,p <.001),汎下垂体機能低下症(90.9% vs 24.2%,p <.001),尿崩症(90.9% vs 21.1%,p <.001)の頻度が有意に高かった.嚢胞の縦径は,通常型の方が有意に大きかった(中央値17 mm vs 13 mm,p =.007).T1強調MRI像で等信号を示す割合は下垂体炎型で有意に高かった(100% vs 35.8%,p <.001).
のう胞再貯留率および再貯留までの期間は両型間で差はなかったが,再貯留時の再手術率は下垂体炎型で高かった(75% vs 13%,p =.015).
【評価】
本研究では,自験のRCC手術例106例を病理学的に検討したところ29例に前葉へのリンパ球浸潤が認められたが,そのうち11例ではMRI上,のう胞壁の著明な肥厚および下垂体茎の3.5 mm以上の腫大が認められ,この11例をMRI上の下垂体炎合併型RCCとして解析している.下垂体茎の径 ≥3.5 mmを基準として用いたのは,健常人の下垂体茎径が1.91-3.25 mmであることを背景としている(文献3,4).
RCCに続発する下垂体炎は,粘液成分を含むのう胞内容による炎症反応(文献5,6),加えてのう胞の破裂とのう胞内容の流出に起因すると推測されている(文献7,8).本研究のシリーズで,下垂体炎合併型ではのう胞のサイズが通常型より小さかったことは,のう胞破裂によるのう胞径の縮小と下垂体炎の惹起という機序を類推させる.
RCCに伴う頭痛や汎下垂体機能低下はRCC卒中(壊死や出血)でも認められるが(文献9,10),RCC卒中では発熱の報告はなく,本シリーズの下垂体炎合併型RCCにおける発熱有り63.6%とは対照的である.また,RCC卒中ではのう胞壁や下垂体茎の腫大も稀である.これらはRCC卒中とRCC合併下垂体炎の鑑別点となり得るかもしれない.
内分泌機能については,下垂体炎合併型の100%と通常型の37.9%に術前の下垂体機能低下があり,術後に少なくとも1系統で機能改善を示したのはそれぞれ18.2%と47.2%と,下垂体炎型での回復は稀であった.下垂体炎が進行しないうちの早期手術の重要性を示しているのかも知れない.ステロイド剤の投与に関しては,本シリーズ11例のうち4例に術後のステロイド治療が行われているが,8ヵ月間プレドニゾロンを漸減投与した1例のみが部分的機能改善を示したという.下垂体炎合併型RCCに対するステロイド剤投与の意義については,今後の研究課題と思われる.
本シリーズの11例の下垂体炎合併型RCCに対するのう胞内容ドレナージ術後,追跡期間中央値27ヵ月間のうち4例(36.4%)でのう胞内容再貯留が認められ,3例(27.3%)が頭痛悪化や視機能障害悪化の理由によって再手術が必要になっている.下垂体炎合併型RCCに対する手術ではのう胞ドレナージのみならずのう胞壁の摘出,造袋術,アルコール塗布などの追加手技が必要なのかも知れない.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Warmbier J, et al. Typing of inflammatory lesions of the pituitary. Pituitary. 25(1):131-142, 2022
- 2) Schittenhelm J, et al. Rathke's cleft cyst rupture as potential initial event of a secondary perifocal lymphocytic hypophysitis: proposal of an unusual pathogenetic event and review of the literature. Neurosurg Rev. 31(2):157-163, 2008
- 3) Satogami N, et al. Normal pituitary stalk: high-resolution MR imaging at 3T. AJNR Am J Neuroradiol. 31(2):355-359, 2010
- 4) Raveendranath V, et al. Three-dimensional magnetic resonance-based morphometry of pituitary stalk. Radiol Med (Torino). 124(3):206-210, 2019
- 5) Hama S, et al. Changes in the epithelium of Rathke cleft cyst associated with inflammation. J Neurosurg. 96(2):209-216, 2002
- 6) Sonnet E, et al. Hypophysitis associated with a ruptured Rathke's cleft cyst in a woman, during pregnancy. J Endocrinol Invest. 29(4):353-357, 2006
- 7) Nishikawa T, et al. Hypophysitis caused by Rathke's cleft cyst. Case report. Neurol Med Chir (Tokyo). 47(3):136-139, 2007
- 8) Yang C, et al. Lymphocytic hypophysitis secondary to ruptured Rathke cleft cyst: case report and literature review. World Neurosurg. 114: 172-177, 2018
- 9) Schooner L, et al. Hemorrhagic presentation of Rathke cleft cysts: a surgical case series. Oper Neurosurg (Hagerstown). 18(5):470-479, 2020
- 10) Elarjani T, et al. Rathke cleft cyst apoplexy: hormonal and clinical presentation. Surg Neurol Int. 12: 504, 2021
参考サマリー
- 1) ラトケのう胞に伴う頭痛は内視鏡下ドレナージで改善する:ロイヤル・メルボルン病院24症例のHIT-6スコアの変化
- 2) ラトケ嚢胞の手術適応とシンプルドレナージ術の効果
- 3) ラトケのう胞の自然経過では増大よりも縮小が多い:過去最大229例の自然史と増大・縮小のリスク因子
- 4) ラトケのう胞感染による下垂体膿瘍:自験の3例と52例のレビュー
- 5) ラトケ嚢胞手術後再発の要因は何か?
- 6) ラトケ嚢胞非手術例では下垂体機能障害の自然回復もある?
- 7) のう胞性下垂体腺腫とラトケ嚢胞の鑑別には造影3D-FLAIRが役にたつ
- 8) のう胞性下垂体部腫瘤の4型への画像分類はラトケ嚢胞とのう胞性下垂体腺腫の鑑別に寄与するか
- 9) 7T-MRIでは下垂体前葉後縁の裂隙が66%以上の頻度で発見される:ミネソタ大学の連続100例
- 10) 鞍上部くも膜のう胞の成人例23例:北京天壇病院