公開日:
2025年9月23日最終更新日:
2025年9月23日Predictive factors for early-onset hyponatremia following endoscopic transsphenoidal surgery for nonfunctioning pituitary adenomas
Author:
Zeng W et al.Affiliation:
Keck School of Medicine, University of Southern California, Los Angeles, California, USAジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2025 Apr |
巻数: | 143(2) |
開始ページ: | 406 |
【背景】
下垂体腫瘍(pitNET)に対する経蝶形骨洞手術後に低ナトリウム(Na)血症が発生することは稀ではない.手術後3日目以降に発生する遅発性低Na血症についてはその頻度やリスク因子が多数報告されているが,手術後3日目までに発生する低Na血症の頻度やリスク因子に関する報告は少ない.本稿は,2012年から2023年までにUSCケック病院において経蝶形骨洞手術が施行された非機能性下垂体腫瘍254例の後方視的解析である.手術前や術後早期にデスモプレッシンが投与された患者は除外されていた.全例で術後3日以内に少なくとも1回の血清Na測定が行われた.65例(25.6%)で早期低Na血症(<135 mEq/L)が確認された.
【結論】
単変量解析では,高齢,術前の血清Na高値,術前の血糖高値,下垂体卒中が早期低Na血症と正相関しており(p <.05),BMI >30は逆相関していた.多変量解析では,術後早期低Na血症の予測因子は,サイアザイド系利尿薬使用(OR 7.84,p =.049),下垂体卒中(OR 21.33,p =.006),術前血糖高値(10 mg/dl上昇ごとにOR 1.16,p =.032)であった.BMI >27は防御因子であった(OR 0.05,p =.010).
術後早期の低Na血症に関する患者毎のリスク因子を捉え,早期検出・モニタリング・治療に役立てるべきである.
【評価】
下垂体腫瘍(pitNET)に対する経蝶形骨洞手術後には,低Na血症を含む電解質異常が起こりやすい(文献1-3).その機序は十分には明らかにされていないが,下垂体後葉への手術的侵襲によるADHの過剰分泌が関与していると考えられている(文献1,2).そのうち遅発性低Na血症は通常,術後3日以降に血清Na値が135 mEq/L未満となるものと定義され,術後7日目に発症率が最も高く,再入院の最も一般的な原因である(文献1,2,4, 5).軽度の低Na血症では悪心,嘔吐,頭痛をきたし,重症例では痙攣や死亡に至ることがある(文献4, 5).遅発性低Na血症の頻度やリスク因子(性,年齢,BMI,腫瘍の種類,大きさ,手術時間,副腎不全など)については報告されているが(文献1-3,6-8),術後早期の低Na血症(術後3日以前に発症するもの)の頻度やリスク因子についての検討は少ない.
本稿は,最近約12年間にUSCケック病院において非機能性下垂体腫瘍に対し実施された経蝶形骨洞手術後に発生した早期低Na血症の頻度とリスク因子を検討したものである.
その結果,早期低Na血症は25.6%の患者で認められ,術前のサイアザイド系利尿薬使用,下垂体卒中症例,術前血糖高値がリスク因子として抽出され,BMI高値( >27)は防御因子であることが明らかになった.なお対象症例全体では,同じ基準(<135 mEq/L)による遅発性低Na血症は20.3%で認められたが,早期低Naは術後7日目の血清Na低値(p =.045)および遅発性低Na血症全体の独立した予測因子であった(OR 5.56,p =.009).
本研究のコホートでは,早期低Na血症を認識した段階で1L/日の水分制限を直ちに導入したとのことである.しかしこのような介入にもかかわらず,早期低Na発症例は遅発性低Na血症と関連していた.著者らによれば,少なくとも一部の患者は持続的な電解質異常を起こしやすい素因を有すると考えられ,より厳格な水分制限(例:0.5L/日)やNa投与(経口食塩)が必要であった可能性があるという.
なお,より厳格にNa <130 mEq/Lで定義した場合,23例(9.1%)が72時間以内に低Na血症を呈した.この場合は,術前Na高値,術前の血糖高値,腫瘍最大径が術後早期低Na血症と相関した.
本稿で示唆された術後早期の低Na血症のリスク因子と低Na血症発生の因果関係は未だ充分には解明されてはいないが,これらの諸因子に注目し,低Na血症の発症,重症化,遷延を防ぐことは,重篤な合併症や長期入院を避ける意味でも重要である.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Cote DJ, et al. Predictors and rates of delayed symptomatic hyponatremia after transsphenoidal surgery: a systematic review. World Neurosurg. 88:1-6, 2016
- 2) Lee CC, et al. Incidence and factors associated with postoperative delayed hyponatremia after transsphenoidal pituitary surgery: a meta-analysis and systematic review. Int J Endocrinol. 2021: 6659152, 2021
- 3) Hayashi Y, et al. Delayed occurrence of diabetes insipidus after transsphenoidal surgery with radiologic evaluation of the pituitary stalk on magnetic resonance imaging. World Neurosurg. 110:e1072-e1077, 2018
- 4) Zada G, et al. Recognition and management of delayed hyponatremia following transsphenoidal pituitary surgery. J Neurosurg. 106(1):66-71, 2007
- 5) Cote DJ, et al. Readmission and other adverse events after transsphenoidal surgery: prevalence, timing, and predictive factors. J Am Coll Surg. 224(5):971-979, 2017
- 6) Hussain NS, et al. Delayed postoperative hyponatremia after transsphenoidal surgery: prevalence and associated factors. J Neurosurg. 119(6):1453-1460, 2013
- 7) Barber SM, et al. Incidence, etiology and outcomes of hyponatremia after transsphenoidal surgery: experience with 344 consecutive patients at a single tertiary center. J Clin Med. 3(4):1199-1219, 2014
- 8) Yoon HK, et al. Predictive Factors for Delayed Hyponatremia After Endoscopic Transsphenoidal Surgery in Patients with Nonfunctioning Pituitary Tumors: A Retrospective Observational Study. World Neurosurg. 122:e1457-e1464, 2019
参考サマリー
- 1) 経蝶形骨洞手術後の低ナトリウム血症予防のためのパスは有効か:BNIにおける失敗
- 2) 経蝶形骨洞腫瘍摘出術後の低ナトリウム血症予防には術後 1 週間飲水量を 1L に制限すればよいだけ
- 3) 下垂体手術後の遅発性低ナトリウム血症と再入院
- 4) 非機能性下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術後の遅発性低Na血症を予測する因子
- 5) 先端巨大症における術後低Na血症は他の下垂体腺腫と異なる
- 6) 非機能性下垂体腺腫の術後尿崩症のリスク因子は若年者と大きな腫瘍径とトルコ鞍内に存在するT1高信号:広島大学連続333例の解析
- 7) 腫瘍上下径は非機能性下垂体腺腫術後の尿崩症の予測因子である:ソウル大学の168例から
- 8) 経蝶形骨洞手術後の再入院:米国の最近の傾向
- 9) 下垂体機能低下症患者や尿崩症患者では血中オキシトシンの濃度が上昇する