海綿静脈洞浸潤を示すACTH産生腫瘍に対する海綿静脈内側壁摘出と術後早期の放射線照射の役割:米国神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の50例

公開日:

2025年9月23日  

最終更新日:

2025年9月23日

Systematic Cavernous Sinus Exploration Combined With Early Hormonal Assessment in Cushing Disease

Author:

Laws MT  et al.

Affiliation:

Neurosurgery Unit for Pituitary and Inheritable Diseases, National Institute of Neurological Diseases and Stroke, Bethesda, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40879393]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

クッシング病(CD)における腫瘍の海綿静脈洞への浸潤は経蝶形骨洞手術による非寛解の主な原因であり,海綿静脈洞内腫瘍の積極的な摘出が寛解率を高めることが報告されている.本稿は米国のNINDSで過去11年間に実施されたCDに対する経蝶形骨洞手術315件の中から,海綿静脈洞内側壁の切除を行った50件(15.8%)(再手術例は15件)を抽出して解析したものである.
50例中37例は術前MRIで海綿静脈洞浸潤が疑われ,13例では術中所見で海綿静脈洞浸潤が疑われたために,海綿静脈洞内側壁の切除が行われた.実際は32例で腫瘍は海綿静脈洞へ浸潤しており,18例では内側壁に癒着していた.
全体の74%(37例)で肉眼的全摘を達成した.

【結論】

一過性の脳神経障害が4例に発生したが,動脈損傷はなかった.
亜全摘に終わった13例では放射線照射が推奨され,実際は10例で施行された.
肉眼的全摘と判断された37例でも,12例(29.7%)では術後ホルモン値の異常に基づき放射線治療が施行された.その内訳は持続性高コルチゾール血症(手術後の血漿コルチゾール ≥5 μg/dL)の5例,抜管時か6時間後の値を術前の負荷試験時の頂値で引いた時(NEPV)のACTHが高値(>1 pg/mL)の5例,あるいはコルチゾールが高値(> 2.1μg/dL)の5例であった.これら12例では照射後再発を認めなかった.
平均29ヵ月の追跡で,最終的に42例(84%)が寛解に至った.

【評価】

クッシング病(CD,ACTH産生下垂体腫瘍)に対する経蝶形骨洞手術の失敗(非寛解)の多くは,海綿静脈洞内あるいは海綿静脈洞内側壁への腫瘍の浸潤が原因である(文献1-4).このため近年,世界的な下垂体センターでは,腫瘍が浸潤した海綿静脈洞内側壁を除去して肉眼的全摘を目指すようになっている(文献3-6).しかし,それでもなお海綿静脈洞深部に浸潤し,手術中には認識できない腫瘍部分によって術後寛解が妨げられたり,再発につながる可能性がある(文献7,8).
本稿は米国のNINDSで,CDに対して海綿静脈洞内側壁の切除を行った50件を取り上げ,その効果を解析したものである.特記すべきことは,このグループでは,手術が亜全摘に終わった13例のみならず,全摘と判断された37例でも,抜管時から術後72時間以内6時間おきに測定したホルモン値を基にした非寛解基準に基づいて,12例に放射線照射を実施していることである.
その基準とは①術後72時間まで6時間おきに測定した血漿コルチゾール値が <5 μg/dLに下がらないこと,②抜管時と術後6時間の血漿コルチゾール値やACTHの値から,術前の負荷試験(CRHまたはDDAVP)時のコルチゾールやACTHのピーク値を引いた値(Normalized Early Postoperative Value:NEPV)が十分に下がらない(コルチゾールで >2.1 μg/dL,ACTHで >1 pg/mL)状態と定義した.②は手術で根治が達成されていれば,術後最大ストレスがかかった時(ACTH産生細胞に対する最大負荷時)の血漿ACTHやコルチゾール値は,術前のACTH産生細胞に対する負荷試験時のそれを超えないであろうという仮説に基づいている.著者らは既に,血漿コルチゾール値と,このNEPV-ACTH値とNEPV-コルチゾール値が,CDに対する術後超早期の段階で非寛解を高い精度で予測することを報告している(文献9,10).
著者らは,このように海綿静脈洞静脈内側壁の除去を含む積極的な手術と術直後のホルモン値を基にした非寛解判断による放射線照射によって,術前画像検査あるいは術中所見で海綿静脈洞浸潤が疑われたCDの実に84%で寛解を達成している(29.2ヵ月の追跡期間).優れた治療成績である.
なお,本稿には放射線照射の方法については記載されていないが,ガンマナイフなどの定位手術的照射が行われたものと思われる.ちなみに,この研究シリーズの手術は,全て顕微鏡下観察による経上口唇下アプローチで行われている.これは術者のChittiboina Pのこだわりによるものと思われるが,殊CDに関する限りは,内視鏡下手術ではないことが手術成績に影響するとは考えられない.

執筆者: 

有田和徳

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