非機能性下垂体腫瘍に対するアップフロント・ガンマナイフは腫瘍制御率は高いが視機能改善率は低い:世界12センター132例の追跡結果

公開日:

2025年12月5日  

Upfront Stereotactic Radiosurgery for Nonfunctioning Pituitary Neuroendocrine Tumors: An International, Multicenter Study

Author:

Dumot C  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Virginia, Charlottesville, Virginia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41055356]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

非機能性pitNET(NFPA)に対しては,経蝶形骨洞手術が治療の第一選択であり,定位手術的照射(SRS)は残存または再発腫瘍に対して施行されることが多い(文献1,2).
しかし手術リスクが高い症例,あるいは手術を希望しない症例に対しては,SRSを初回治療として施行することもある(文献3,4).
本研究は,世界12ヵ所のガンマナイフセンターで初回治療としてSRSが施行された132例のNFPAの長期効果を解析したものである.年齢中央値51.2歳,腫瘍体積中央値2.1 cm³.SRSを初回治療として選択した理由は,手術リスクが高い18.5%,患者の希望81.5%であった.辺縁線量中央値は12 Gy.

【結論】

追跡期間中央値2.7年.
SRS後3年,5年,8年での腫瘍制御率はそれぞれ100%,98.1%,92.4%であった.新たな下垂体機能低下の累積発生率は,3年で11.7%,5年で24.4%,8年で29.5%であった.新規の視野障害は認めなかった.
SRS前に50例(37.9%)が視野障害を有しており,最終追跡時(中央値2.2年)には17例(34.7%)で完全回復,12例(24.5%)で部分回復,19例(38.8%)で不変であった.1例(2.0%)でSRS後に悪化を認めた.
SRS前に10例(7.6%)が動眼神経麻痺を呈していた.最終追跡時には5例が不変,1例が部分改善,5例が完全回復であった.

【評価】

本研究は,NFPAに対して,世界12ヵ所のガンマナイフセンターで初回治療としてのSRS(アップフロント・ガンマナイフ)が選択された132例という過去最大数のコホートの長期経過を解析したものである.その結果,SRS後8年での腫瘍制御率は92.4%と高かった.しかし,追跡期間中央値2.7年において,腫瘍体積縮小は77例(58.3%)にとどまり,不変53例(40.2%),増大2例(1.5%)であった.また視機能の改善率も高くなく,完全回復は34.7%にとどまり,不変は38.8%であった.さらに,新たな下垂体機能低下の累積発生率も8年間で29.5%と決して無視できない頻度であった.著者らはこの結果を受けて,アップフロント・ガンマナイフは,適切に選択されたNFPA患者に対する有効かつ安全な治療選択肢となり得るが,視野障害の回復率が低いことから,視野障害を有さない症例では適応が考慮されて良いかも知れないとまとめている.
70歳以上の高齢患者では経蝶形骨洞手術に伴う合併症リスクが上昇する傾向が報告されている(文献5,6,7).しかし,高齢者でも経蝶形骨洞手術は安全に実施可能であるとの報告もあり(文献8,9,10),高齢者であることのみをもって経蝶形骨洞手術の適応外とするのではなく,全身合併症の程度やフレイルの評価を行った上で,アップフロント・ガンマナイフの適応が判断されるべきであろう.
本研究で気になるのは,患者年齢が中央値51.2歳と決して高くはないことで,日本のNFPA患者(発症年齢のピーク値:55~59歳)の中ではむしろ若い患者に属する.また本研究シリーズでSRSを初回治療として選択した理由としては,「手術リスクが高い」は18.5%と2割以下であり,患者の希望が81.5%と高かった.もしかすると,エビデンスに基づいてきちんとした説明が行われれば経蝶形骨洞手術や経過観察の対象となった患者が含まれていた可能性がある.
今後は,例えば80歳以上の高齢者などのハイリスクの患者を対象に傾向スコアマッチングなどの手法を用いてサイズ,視機能障害,術前下垂体機能障害等を調整して,安全性や長期効果について,経蝶形骨洞手術とアップフロント・ガンマナイフを比較すべきであろう.さらに,視機能障害がない例では,自然経過(治療せずに経過観察)とアップフロント・ガンマナイフの比較も必要であろう.

執筆者: 

有田和徳

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