公開日:
2026年2月20日Patient perceptions of pituitary incidentaloma diagnosis and follow-up: a Pituitary Society international patient survey
Author:
Fukuoka H et al.Affiliation:
Kobe University Hospital, Kobe, Japan| ジャーナル名: | Pituitary. |
|---|---|
| 発行年月: | 2025 Dec |
| 巻数: | 29(1) |
| 開始ページ: | 2 |
【背景】
高解像度の画像診断機器の普及によって,下垂体偶発腫が発見される頻度は増えている.The Pituitary Societyは2025年6月に,下垂体偶発腫のマネージメントに関する国際的なコンセンサス・ガイドラインを発表した(文献1).本稿は,これに併せて実施された,下垂体偶発腫の診断,予後,経過について,患者がどのように受け止めているのかについて,世界15ヵ国で多肢選択式質問票を用いて行ったアンケート調査の結果である.
対象患者は275例で,国籍別の割合は,UK(31%),オーストラリア(20%),日本(18%),ブラジル(15%),米国(6%),アイルランド(5%)などであった.
【結論】
患者の年齢の大部分は30-69歳であった.ただし,日本の患者年齢は高く,50-59歳が大部分であった.
この下垂体偶発腫について,神経疾患あるいは内分泌疾患の専門医から説明をうけたのは全患者のうち44%だけであった.60%の患者は「腫瘍がある」と伝えられたが,「良性」あるいは「癌ではない」と説明されたのは38%のみであった.58%は治療あるいは長期合併症について不安を感じており,26%は「腫瘍が癌」であること,あるいは「腫瘍による死亡」に対する恐怖を抱いていた.17%の患者では,下垂体偶発腫が今後どのような経過をたどるのかについて,殆どあるいは全く具体的な説明を受けていなかった.
【評価】
微小な下垂体内のう胞も含めれば成人の10-38%は何らかの下垂体偶発腫を有していると推定され(文献2),近年の高解像度のCTやMRIの普及によって,それらが発見される頻度は増加している(文献2,3,4).しかし,その大部分は極めて良性で成長速度は遅く,長期に経過観察しても手術が必要になることは少ない(文献3,5,6).本研究は,そのような下垂体偶発腫についての患者の理解に関する多肢選択式質問票による国際的なサーベイである.
その結果,56%の患者がこの疾患に詳しい専門医からの説明を受けておらず,60%の患者は「腫瘍がある」と説明されていた.一般人の多くは「腫瘍」=「癌」という短絡を有する傾向があり,そのことが,26%の患者では「腫瘍が癌」であること,あるいは「腫瘍による死亡」に対する不安をいだいているという結果につながっているものと思われる.この誤解は,患者の精神状態に大きな影を落としているであろうことは容易に想像できる.
著者らは,このサーベイの結果は,下垂体偶発腫についての担当医師-患者間のコミュニケーションのギャップが大きいことを明白にしていると要約している.また,この疾患に対する正しい理解を促進するためのより充実した患者教育の必要性を強調している.
大変に興味深い,また有益な研究である.下垂体偶発腫の患者に対しては,この疾患に精通した専門医が丁寧に説明を行うことと同時に,学会としても正しい理解が進むようにウェブサイト等で解説すべきであろう.特に現在,WHO内分泌腫瘍第5版(2022)に基づき,従来の下垂体腺腫は神経内分泌腫瘍に再分類されているが(文献7),「腫瘍」という言葉が患者の心証に与える影響については十分に配慮されるべきであろう.
なお,このアンケート調査に参加した日本人は50名であったが,現在,下垂体偶発腫を有していると診断されている日本人患者は少なくとも1,000人は超えているはずである.将来,これらの患者を対象とした同様な調査が行われることに期待したい.
<著者コメント>
本研究は下垂体偶発腫に関する国際的コンセンサス・ガイドライン作成にあたり,患者の意見を体系的に取り入れることを目的として実施された国際規模のアンケート調査である.近年,患者参画(Patient involvement)の重要性が強調される中,本研究はその実践例として高い意義を有している.特に,日本の下垂体患者の会の活動と協力体制はガイドライン委員からも高く評価され,英国,オーストラリアに次ぐ多くの日本の患者から回答が得られたことは特筆すべき成果である.これにより,日本の患者の声が国際ガイドラインに反映される基盤が構築された点は極めて重要である.さらに,本結果を患者会にフィードバックしたことにより,同じ疾患に直面する患者が世界各国に存在することを共有する機会となった点も,本研究の社会的意義として評価される.また,アンケート結果は国際的な比較において,日本と他国との間に大きな差がなかったことも興味深い.(神戸大学 糖尿病・内分泌内科 福岡秀規)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Fleseriu M, et al. Pituitary incidentaloma: a Pituitary Society international consensus guideline statement. Nat Rev Endocrinol. Oct;21(10):638-655, 2025
- 2) Giraldi E, et al. Pituitary incidentalomas: best practices and looking ahead. Endocr Pract 29:60–68, 2023
- 3) Melmed S, et al. Clinical biology of the pituitary adenoma. Endocr Rev 43:1003–1037, 2022
- 4) Langlois F, et al. What to do with incidentally discovered pituitary abnormalities? Med Clin North Am 105:1081–1098, 2021
- 5) Hamblin R, et al. Natural history of non-functioning pituitary microadenomas: results from the UK non-functioning pituitary adenoma consortium. Eur J Endocrinol 189:87–95, 2021
- 6) Han AJ, et al. Nonfunctioning pituitary microadenomas: should imaging interval be extended? A large single-center cohort study. J Clin Endocrinol Metab 107:e1231–e1241, 2022
- 7) Asa SL, et al. Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary Tumors. Endocr Pathol. 33(1):6-26, 2022
参考サマリー
- 1) 無症候性下垂体微小腺腫は5年間の追跡期間で3割が大きくなり2割が小さくなる:ハーバード大学関連病院の177例
- 2) 非機能性微小下垂体腺腫は5年間の追跡期間で0.2%だけが視機能障害をきたす大きさになる:過去最大,419例の英国コホート
- 3) 無症候性非機能性下垂体腺腫は経過観察がよいのか?
- 4) 視神経圧迫が見られるが視野障害のない非機能性下垂体腺腫の自然史
- 5) 非機能性下垂体腺腫では鞍上部腫瘍体積が1.5mLを超えれば視野障害が100%出現する
- 6) ラトケのう胞の自然経過では増大よりも縮小が多い:過去最大229例の自然史と増大・縮小のリスク因子
- 7) のう胞性下垂体部腫瘤の4型への画像分類はラトケ嚢胞とのう胞性下垂体腺腫の鑑別に寄与するか
- 8) 非機能性下垂体腫瘍に対するアップフロント・ガンマナイフは腫瘍制御率は高いが視機能改善率は低い:世界12センター132例の追跡結果
- 9) 高齢者における非機能性下垂体腺腫手術にリスクはないか?