80歳以上の三叉神経痛患者に対する神経血管減圧手術は危険か:クリーブランド・クリニックの経験

公開日:

2026年4月11日  

Safety and Efficacy of Microvascular Decompression for Trigeminal Neuralgia in the Octogenarian Population: Insights From a Propensity Score-Adjusted and Matched Analysis

Author:

Sabahi M  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Pauline Braathen Neurological Center, Cleveland Clinic Florida, Weston, Florida, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41615180]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

神経血管減圧手術(MVD)は三叉神経に対する最も有効な治療法であるが,高齢者では併発疾患やフレイルのため選択されにくく,ガッセル神経節に対する破壊的(ablative)な治療やガンマナイフ治療が選択されることが多い(文献1-4).70歳以上でも,MVDによる合併症は特に増加しないとの報告もあるが(文献5-8),80歳以上に特化した報告はない.本研究は2018-2024年にクリーブランド・ファンデーション2施設において実施されたMVD 280例を対象に,80歳以上に対するMVDの安全性・有効性を評価した.傾向スコアマッチングで,全280例から1:4の割合で152例(80歳以上33例,80歳未満119例)を抽出して解析対象とした.

【結論】

80歳以上群はBMIが低値であり(25.8 vs 28.1,p =.0175),術前に不整脈の診断を有する割合が高かった(15.2 vs 3.4%,p =.0237).しかしそれ以外の併存疾患,三叉神経痛の性状,既治療歴に関しては有意差を認めなかった.
術後合併症において80歳以上群で有意に高かったのは,新規または増悪した不整脈のみであった(6.1 vs 0%,p =.0460).在院日数,再入院率,再手術率,および内科的・外科的合併症については,二つの年齢群間で有意差を認めなかった.
80歳以上群においても術後の疼痛軽減は若年群と同等であり,BNI疼痛スコアの改善も同様であった.

【評価】

80歳以上の高齢者でも,三叉神経痛のため生活の質(QOL)が強く障害されている患者は稀ではなく,かたやテグレトールなどの薬物療法は眠気やふらつき,骨髄抑制などの副作用のため,継続できないことも多い.
本稿はクリーブランド・ファンデーションにおいて実施されたMVDの後方視的解析である.その結果,MVDを施行した80歳以上の患者では,不整脈の発生頻度は高いものの,疼痛緩和および術後成績において若年患者と同等の結果が得られることを明らかにしている.その上で,MVDは高齢の三叉神経痛患者の生活の質を改善し得る有効な治療選択肢であると総括している.力強い結論である.
気になるのは合併症であるが,本研究では髄液漏,深部静脈血栓症,頭蓋内出血,感染など多くの術後合併症の発生率に年齢群間差は認めなかった.深部静脈血栓症,心筋梗塞,心不全増悪,肺炎,尿路感染,死亡はいずれの群でも認めなかった.また,在院日数中央値は両群とも2日であった.ただし,少なくともこの研究対象となった80歳以上群は,併存疾患が適切に管理され,全麻下開頭手術に耐えうると判断された低リスクの患者群で構成されている可能性は考慮しておくべきであろう.いずれにしても,三叉神経痛の患者では年齢のみを理由にMVDの適応を除外すべきではなく,併存疾患および全身状態の包括的評価の上でその適応が決定されるべきである.手術手技そのものの観点から言えば,高齢者では小脳も萎縮しているため髄液スペースは広くアプローチは楽であるが,動脈硬化のため,移動すべき血管は硬く,また蛇行した椎骨脳底動脈が圧迫に関与していることが多く,圧迫血管の移動が困難な症例があるということは予測しておくべきであろう.

執筆者: 

有田和徳