補足運動野症候群という神話:背内側前頭皮質切除後の運動障害の真の原因は?

公開日:

2026年10月2日  

The myth of the supplementary motor area syndrome: the etiology of motor deficits after dorsomedial frontal resections

Author:

Dono A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, McGovern Medical School, The University of Texas Health Science Center at Houston, Texas, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:42628131]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

補足運動野(SMA)は上前頭回後方1/3に位置し,運動や発話などの複雑な行動の開始,順序づけ,タイミングの調整に重要な役割を果たす(文献1,2).SMAの腫瘍の摘出後には,対側肢の失行や発語失行,すなわち補足運動野症候群(SMAS)を呈することがあるが(文献3-6),これまでの報告ではその発生頻度は23-100%と大きくばらついている(文献1,7,8).テキサス州のマクガバン医科大学脳外科はSMAの切除によって本当にSMA症候群が起こるのか,起こるとすれば,脳損傷の拡がりはどのようであるのかを後方視的に解析した.対象は2004-2025年にSMAを含む背内側前頭皮質領域の切除術を受けた80例(神経膠腫85%,てんかん15%)である.

【結論】

手術ではできるだけナビゲーション,運動機能マッピング・モニタリングを用い,脳ベラは全例で使用しなかった.術後運動障害は27例(33.8%),無言症は1例(1.3%)で認められた.新規運動障害の51.9%(14/27)は術後2週間までに術前レベルまで回復した.一次運動皮質または帯状回の併存切除・障害を伴う19例を除外すると,SMA自体に特異的と考えられる障害の発生率は10%(8/80)にとどまった.新規運動障害を呈した患者では右半球切除が多かった(p =0.033).永続性障害は6.3%(5/80)にみられ,術前筋力低下(p =0.047)および出血や水頭症などの重大な術後合併症(p =0.013)との相関が認められた.

【評価】

本研究結果はSMA症候群に関する古典的な理解に疑問を投げかけるもので,切除範囲がSMAに限局する場合,術後運動障害は稀で,軽度かつ速やかに改善することを明らかにした.また,遷延性の運動障害はSMA切除そのものよりも,隣接する機能的に重要な領域(一次運動皮質または帯状回)の損傷を反映していた.
著者らが実行している,ナビゲーション,脳機能マッピングを用い,脳ベラを用いない手術によって,SMAを含む背内側前頭皮質領域の病変は従来より安全に切除できることを示した.
注目すべきは,本研究では右側病変の方が術後運動障害が高頻度にみられたことである.ただし,対象症例中,右側病変切除例では術中マッピングの使用頻度が低く,右側病変に対するマッピングの不十分な活用がこの左右差を説明できる可能性がある.著者らはこの結果を受けて,左右半球を問わず,機能的運動領域近傍のすべての病変において術中マッピングが必要であると述べている.
以上の結果は,腫瘍やてんかん原性病変がSMAに限局する場合でも過剰に畏れる必要はなく,ナビゲーションやモニタリングを駆使した精緻な摘出を推奨するものとなっている.

執筆者: 

有田和徳