公開日:
2026年7月28日最終更新日:
2026年7月28日Postoperative days 1 and 2 morning cortisol levels as predictors of long-term secondary adrenal insufficiency following pituitary adenoma surgery
Author:
Liu KG et al.Affiliation:
Department of Neurological Surgery, Keck School of Medicine at The University of Southern California, Los Angeles, USA| ジャーナル名: | J Neurosurg. |
|---|---|
| 発行年月: | 2026 Feb |
| 巻数: | 145(1) |
| 開始ページ: | 59 |
【背景】
下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術後に,長期のグルココルチコイド補充を要する続発性副腎皮質機能低下症(SAI)が発生する頻度は数%と推測されるが,看過すれば重篤な症状を招きかねない(文献1-3).従って,手術後早期かつ簡便にその発生が予測できるのであれば,臨床的有用性は高い.
南カリフォルニア大学Keck医学部脳外科のチームは,内視鏡下経蝶形骨洞手術を受けた患者のうち周術期にグルココルチコイド投与を行っていない229例を対象に,術後1日目と2日目の午前6時から10時30分における血中コルチゾール値と新規術後SAI発生との関係を検討した.術後1日目朝のコルチゾール値が異常または判定保留の場合に術後2日目朝コルチゾール値を測定した.
【結論】
術後にコルチコステロイド補充を要する新規SAI発症は7.8%,補充療法が術後1年以上継続された長期のSAIは6.1%であった.SAI発症は,術後1日目朝(OR 0.91,95% CI 0.86-0.97,p =0.004)および術後2日目朝(OR 0.30,95% CI 0.09-0.96,p =0.041)のコルチゾール値の双方と有意に関連し,識別能は術後2日目朝の方が優れていた(AUC:1日目 0.719,2日目 0.990).術後2日目朝のコルチゾール値は,4.95 μg/dLをカットオフとした場合,SAI発症を有意に予測し(p <0.001),感度100%,特異度96.1%であった.
【評価】
本研究は下垂体腺腫に対して内視鏡下経蝶形骨洞手術が行われた患者を対象に,術後1日目あるいは2日目朝の血中コルチゾール濃度が,続発性副腎皮質機能低下症(SAI)の予測に役立つか否かを検討した後方視的研究である.その結果は,術後1日目あるいは2日目朝いずれのコルチゾール値も,新規のSAIの発生と有意に相関していたが,2日目朝の測定値の方がより特異的な予測指標で,4.95 μg/dLをカットオフした場合,感度100%,特異度96.1%,陰性適中率100%であった.
なお,SAIを含む何らかの下垂体機能低下症の発症の予測能についても,術後1日目朝(OR 0.966,95% CI 0.940-0.992,p =0.011)および術後2日目朝(OR 0.841,95% CI 0.751-0.943,p =0.002)の双方で有意であったが,やはり術後2日目朝の予測能が優れていた(AUC 0.759 vs AUC 0.620).何らかの下垂体機能低下症の発症の予測能は,術後2日目朝のコルチゾール値14.0 μg/dLをカットオフとすると,感度94.4%,特異度46.3%,陰性適中率95.0%であった.
ちなみに,術後1日目朝の血中コルチゾール濃度と新規SAIの発生については,最適カットオフの8.90 μg/dLでは,AUC 0.719(p =0.004),感度41.2%,特異度92.1%であり,予測性能は低かった.
下垂体腺腫に対して経蝶形骨洞手術の前後の予防的なステロイド剤投与がルーチンで行われていた時代もあるが,術前からの明らかな続発性副腎皮質不全を伴わない患者に対する予防的なステロイド剤投与は,近年差し控えられるようになってきているようである(文献4-6).本論文の研究は,そのような患者における術後早期の血中コルチゾール値,特に2日目朝のそれが術後のSAI発生を予測し得ることを明らかにしており,臨床的実用性が高そうである.
本研究の最大の問題は,術後1日目朝のコルチゾール値が異常または判定保留の患者のみが術後2日目朝のコルチゾール値測定の対象となったことである.実際の血中コルチゾール値測定は,全対象患者229例のうち,術後1日目は219例(95.6%),術後2日目は59例(25.8%)で,両方測定されたのは49例(21.4%)に過ぎない.やはり全例で,術後1日目朝と術後2日目朝の測定を行い,これらの測定値と術後SAI発生の関係を解析すべきである.また,本研究における採血時間は午前6時から10時30分とかなり幅広いため,結果的に生理的日内変動が含まれる可能性がある.やはり午前8~9時で食前など,もう少し厳密な採血条件の設定も必要である.
こうした研究結果が明らかになるまでは,術後2日目朝の血中コルチゾール値が5 μg/dL以下の患者では,SAIの発生に十分な注意をはらうべきであろう.ちなみに英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドラインでも,午前8~9時コルチゾール値が150 nmol/L未満(約5.4 μg/dL未満)では副腎不全の可能性が高いとして注意を喚起している(文献7).
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Butenschoen VM, et al.Transsphenoidal pituitary adenoma resection: do early post-operative cortisol levels predict permanent long-term hypocortisolism? Neurosurg Rev. 45(2):1353-1362, 2022
- 2) Pofi R, et al. Recovery of the hypothalamo-pituitary-adrenal axis after transsphenoidal adenomectomy for non-ACTH-secreting macroadenomas. J Clin Endocrinol Metab. 104(11):5316-5324, 2019
- 3) Pedersen MB, et al. Endocrine function after transsphenoidal surgery in patients with non-functioning pituitary adenomas: a systematic review and meta-analysis. Neuroendocrinology.112(9):823-834, 2022
- 4) Prete A, et al. Current best practice in the management of patients after pituitary surgery. Ther Adv Endocrinol Metab. 8(3):33–48, 2017
- 5) Guo X, et al. Safety of withholding perioperative hydrocortisone for patients with pituitary adenomas with an intact hypothalamus-pituitary-adrenal axis: a randomized clinical trial. JAMA Netw Open. 5:e2242221, 2022
- 6) Hattori Y, et al. Prophylactic steroid administration and complications after transsphenoidal pituitary surgery: a nationwide inpatient database study in Japan. Br J Anaesth. 127(2):e41-e43, 2021
- 7) Adrenal insufficiency: identification and management. NICE guideline. Reference number: NG243, Published: 28 August 2024
参考サマリー
- 1) 経蝶形骨洞手術における予防的ステロイド剤投与の実態(2010~2016年):日本におけるDPCの解析から
- 2) 非機能性下垂体腫瘍では腫瘍摘出度が高いほど術後の副腎皮質機能改善率が高い:Mayoクリニックの450例
- 3) 非機能性下垂体腺腫に対する経鼻内視鏡下手術後早期の低Na血症の予測因子は何か:USCケック病院の254例
- 4) 非機能性下垂体腺腫摘出術後の成長ホルモン分泌能回復の予測因子はなにか:連続276例の解析から
- 5) 非機能性下垂体腺腫の術後尿崩症のリスク因子は若年者と大きな腫瘍径とトルコ鞍内に存在するT1高信号:広島大学連続333例の解析
- 6) COVID-19ワクチン接種時に副腎皮質ホルモン補充量を増やすべきか:下垂体会議(pituitary society, NY)のサーベイ
- 7) 術中ICG蛍光による下垂体茎血流評価は術後下垂体機能を予測する:頭蓋咽頭腫10例における初期経験
- 8) 経蝶形骨洞手術前のステロイド投与は必要か:ソウル大学での二重盲検RCT
- 9) 非機能性下垂体腺腫における術後下垂体体積は下垂体機能の回復と相関するのか