BRAF V600E陽性ラトケのう胞とは何か:北京天壇病院より

公開日:

2026年10月2日  

Surgical implications of BRAF V600E-positive Rathke's cleft cysts: prediction of early recurrence based on reclassification to papillary craniopharyngioma

Author:

Shee LY  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:42102398]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 May
巻数:145(3)
開始ページ:693

【背景】

頭蓋咽頭腫のうちエナメル上皮腫型(ACP)ではCTNNB1変異が,乳頭型(PCP)ではBRAF V600E変異が特異的に発現するが(文献1-3),ラトケのう胞(RCC)にはこれらのドライバー変異はないとされてきた(文献4).しかし,RCCの一部にBRAF V600E変異を認めるとの報告が現れ,PCPとの生物学的重複や腫瘍性転化の可能性が問題となっている(文献5,6).
北京天壇病院脳外科は,2015年以降の約10年間に摘出されたRCC 383例のうち,BRAF V600EおよびCTNNB1の免疫染色が行われ,臨床および画像記録,追跡データが完全なRCC 69例(18.0%)を後方視的に解析した.

【結論】

組織学的には39例(56.5%)でRCC上皮細胞に扁平上皮化生(SM)を認めた.
CTNNB1変異を反映する核内β-catenin蓄積例はなかった.
一方,BRAF V600E変異は7例(10.1%)に認められ,同変異はすべてSM部位内に限局しており,Sangerシークエンスでも確認された.これら陽性例ではKi-67 indexも上昇し,その増殖活性はSM上皮の基底層に集中していた.これらの分子学的・組織学的所見に基づき,BRAF V600E陽性7例はPCPに再分類された.Kaplan-Meier解析では,BRAF V600E陽性RCCは野生型例RCCと比べPFSが有意に不良であった(p =0.023).

【評価】

本研究は,病理組織学的にRCCと診断された69例のうち7例(10.1%)において,扁平上皮化生(SM)部分にBRAF V600E変異が認められることを明らかにしている.これらの7症例は野生型のRCCの62例と比べて,PFSが有意に不良で(p =0.023),再発リスクも有意に高かった(HR:27.50).SMがあった39例(56.5%)だけで解析しても,BRAF V600E変異7例では,野生型32例と比較して,やはりPFSが有意に不良で(p =0.005),再発リスクが高かった(OR:6.85).
最終的に,BRAF V600E変異RCCの7例は2021 WHO中枢神経系腫瘍分類に準拠,すなわち“RCCはBRAF V600EまたはCTNNB1変異を有さない”に基づいて,PCPに再分類されたという.
著者らはこの研究結果を受けて,すべてのRCCでBRAF V600E検査を行うことを推奨している.
RCCのうち約10%でBRAF V600E変異が見つかるということであれば,他施設の症例でも容易に多数例が集積できるはずである.その臨床像や画像所見が野生型RCCと比較してどう違うのか,本当にPCPに含めて良いのか,他施設での検証に期待したい.
興味深いのはBRAF V600E変異RCCがRCCとは元々別物であるのか,同変異がRCCのSM内で新たに発生するのかであるが,これに関しては今後の遺伝子学的な研究の発展を待ちたい.

<コメント>
乳頭型頭蓋咽頭腫(PCP)のほぼ全例にBRAF V600E変異が認められることが明らかになって以降,扁平上皮化生を伴うRCCのうち,組織学的にPCPとの鑑別が困難な症例において,BRAF V600Eを検索することが両者の鑑別に有用であることが報告されている.本研究でも,当初RCCと診断された症例の一部にBRAF V600E変異が認められ,さらにこれらの症例では再発リスクが高いことが示されている.
本研究の最も興味深い点は,これらのBRAF V600E陽性病変が「もともとPCPであったものをRCCと誤診していた」のか,それとも「RCC,特にその扁平上皮化生を起点としてPCPへ腫瘍性形質転換した」のか,という点である.PCPの発生については,pars tuberalis領域のpituitary cellが扁平上皮化し,そこからPCPが発生するという仮説が提唱されている.この仮説は,PCPの多くが鞍隔膜上・下垂体茎周囲に発生することとも整合する.一方で,PCPの中には明らかなトルコ鞍内発生例も存在する.本研究において,BRAF V600E変異を有するRCC様病変が純粋な鞍上部ではなく,主としてトルコ鞍内を中心に認められたことは興味深い.
一方,本研究の解釈にはselection biasへの注意が必要である.組織学的にRCCと診断された全症例のうち解析対象は18%にすぎず,さらに56.5%に扁平上皮化生を認めており,一般的なRCC集団を反映しているのかは慎重に考える必要がある.また,RCCに対する手術適応や嚢胞壁切除の方針も,日本で一般的に行われている診療とは異なる可能性がある.(鹿児島大学 下垂体疾患センター 藤尾信吾)

執筆者: 

有田和徳